東急電鉄が取り組むDEI施策とは?女性の健康課題解決に向けたヘルスケアアプリ『Wellflow』導入の背景と対面研修の効果
- 株式会社 Flora
- 6月13日
- 読了時間: 14分

今回のインタビューでは、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の一環として女性の健康課題解決に取り組む東急電鉄株式会社(以下:東急電鉄)の経営戦略部 労務ES課 入江様(写真左)、宮嵜様(写真中央)そして鈴木様(写真右)に、同社が女性向けヘルスケアアプリ “Wellflow”を導入された背景と、オンラインではなく対面研修を選択した理由、その効果について詳しく伺いました!
企業プロフィール
社名: 東急電鉄株式会社
業種: 運輸業
従業員数: 3,662名(2025年3月31日現在)
エリア: 東京都西南部から神奈川県東部にかけて鉄軌道事業を展開。本社は東京都渋谷区。
ご担当者様情報
経営戦略部 労務ES課 宮嵜様、入江様、鈴木様
ご導入頂いたサービス
女性向けヘルスケアアプリ “Wellflow”
女性社員向け対面研修「職場の監督者の方とのコミュニケーションについて」
管理職(監督者)向け対面研修「女性の健康課題における職場での当事者とのコミュニケーションについて」

東急電鉄が女性の健康課題に取り組む理由とは?
弊社サービス“Wellflow”のアプリと研修をご活用いただいていますが、その導入の背景についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
入江様:鉄道会社である当社においては、現場も抱えており、夜勤を含む不規則な勤務形態は、デスクワークとは大きく異なり、特に女性従業員にとっては身体的な負担も大きいと感じています。そうした中で、ちょうど他の鉄道会社の方から本サービスのご紹介をいただき、「ぜひ当社でも導入を検討したい」と考えたのがきっかけだったと聞いています。
おっしゃる通り、デスクワークと現場業務ではまったく異なる課題があると思いますが、特に御社において、女性従業員に関して現場で実際に見えていた課題にはどのようなものがあったのでしょうか?
入江様:そうですね。夜勤がある勤務形態で、昼間に働く日もあれば、夜勤が続く日もあるなど、勤務時間が不規則な中で、女性従業員自身が体調管理や育児との両立において困難を感じている状況がありました。生活リズムを一定に保つことも難しく、どのように働きやすい環境を整えるかが課題となっています。
宮嵜様:特に現場の女性従業員に関しては、生理の際に突発的な休暇を取る必要があることが多く、乗務員は特に、急な欠勤が発生すると誰かがその代わりを務めなければならないという事情があります。なので、本人も「周囲に負担をかけてしまう」と感じてしまい、休みづらくなるという問題が発生していました。そのため、まずは「休みやすい環境を作る」ということが重要ですが、女性従業員自身がセルフケアを通じて、突発的な休暇を取る機会を減らすことに繋げられるのではないか、また、普段からの体調管理に関するリテラシーを高めることも重要ではないかと考えていました。
これまで現場では、特に業界特有の事情に起因する課題が多く、ボトムアップの文脈でお話を伺うことが多かったのですが、逆に御社として、経営的な視点から「エンゲージメント向上に力を入れていきたい」と考えていたり、「人的資本経営を推進したい」といった課題意識があったのでしょうか? それとも、完全に現場の声を受けての取り組みだったのでしょうか?
入江様:東急グループ全体を見ると、今回の導入前からダイバーシティに関する基本的な経営方針は定められており、グループ全体として施策を推進している状況でした。しかし、そうした方針を掲げてはいたものの、具体的に従業員の労働環境をどのように改善していくかについては、なかなか着手できていなかったのが実情です。そして、アフターコロナの状況にある中で、従業員のボトムアップによる声が多く寄せられるようになりました。また、会社全体として人材確保が難しくなっている中で、体調面が理由で休職や退職をされる方が一定数いらっしゃるという現状もありました。そのような状況の中で、経営部門としても「この問題をどう解決していくべきか」という課題認識を持ち、最終的には、現場の声と経営視点の両輪で検討を進めていく流れになったのではないかと思います。
鈴木様:社内のエンゲージメントに関する観点では、コロナ禍の影響で女性の健康課題に限らず、従業員全体のエンゲージメントが低下しつつあり、また、離職率の上昇が経営的な課題として重要視される時期でした。そのため、当社としてもアフターコロナ以降、全体のエンゲージメントを向上させるための施策を積極的に推進してきました。一般的には、まずリモートワークの推進などの働き方改革が重視されがちですが、それだけではなく、今回のような女性の働き方に関する施策についても、しっかりと取り組んでいこうと考えました。
入江様:この流れの中で、当社としても独自にDEIへの取り組みを強化するため、2024年10月に全社的な方針を策定し、ニュースリリースを通じて社内外に向けた発信を行いました。現在もエンゲージメント調査を実施しながら、従業員の抱く課題を把握し、より良い環境の整備に取り組んでいます。

今回のアプリと研修に関しても、もちろん現場の課題解決という側面がある一方で、経営的な視点から見ると、エンゲージメント向上施策の一環として位置づけられています。
宮嵜様:DEIの方針に則り、一人ひとりが最大限に活躍できる環境を整えることが、結果的に人材確保の観点からも重要であると考えています。仕事をする上で阻害要因があるのであれば、それを取り除き、業務に集中できる環境を整えることが必要です。
入江様:当社はB2Cの会社であり、お客様との接点を多く持つ企業だからこそ、社内の多様なバックグラウンドを持つ従業員が共存する環境を整えることが、お客様の多様なニーズに対応することにもつながると考えています。そのため、まずは社内での相互理解を深め、DEIの考え方を浸透させていくことが必要だと認識しています。エンゲージメント向上は、すべての施策に関連する重要な要素であり、会社としても事業成長の観点から、多様な視点を持ちながら企業経営を進めていくことが求められていると考えています。
「働きやすい環境づくり」だけでは足りない?エンゲージメント向上に欠かせない施策とは
宮嵜様がおっしゃった人材確保の部分について、もう少し詳しくお伺いしたいと思います。例えば、2つの側面があるのではないかと思いました。1つは、「これだけサポートしているから」といった採用方法的な視点、もう1つは、当日欠勤や離職といった問題への対策として、現在いる従業員をケアするという視点です。どちらも期待されているのか、あるいは特に重視された点があれば、お聞かせいただけますでしょうか?
宮嵜様:それこそ、両方だと思います。単純に「このアプリを導入しました」「研修を実施しました」というだけでは、確かに対外的なPRにはなりますが、それだけで人材が集まるわけではありません。重要なのは、それを導入したことで本当に働きやすくなったという実感を従業員に持ってもらうことです。その実感が、従業員の声として社内外に広がり、最終的に魅力ある会社づくりにつながることで、結果的に良いサイクルが生まれるのではないかと考えています。
今回、御社にはアプリだけでなく実地研修も導入いただいています。実地研修は、受講者を集める負担や開催回数の増加といったハードルがあると思いますが、その中で実地研修を選ばれた理由についてもお伺いできますでしょうか?
入江様:おっしゃる通りで、計7回の研修を実施しましたので、それなりの規模とハードルがあったことは事実です。しかし、ウェビナー形式では受講者本人が「自分ごと」として受け止めにくく、学習の深度が浅くなってしまうのではないかという懸念がありました。また、講師の方から直接投げかけをしていただくことで、受講者により強く理解を促せることも実地研修の利点だと考えました。
今回の研修は、上司向けのものと、女性従業員向けの2種類を実施しました。同じような職責や課題を抱える人たちを集めたことで、お互いの意見を交換しながら知見を深める場にもなりました。また、研修に加え、会社の制度紹介やDEI推進の方針も発信する機会としました。そのような位置づけから、対面研修が最も効果的だと判断し、今回の形式を採用したという経緯です。
宮嵜様:DEIの方針説明も併せて実施することで、マインドチェンジが必要な従業員にも直接伝えられるというメリットが実地研修にはあると思います。
ここからは、さまざまなサービスがある中で、なぜ弊社の研修を選ばれたのかについてお伺いしたいと思います。研修を提供している企業は数多くあると思いますが、アプリとのセットで提供している点以外に、弊社の研修を選ばれた理由があればお聞かせください。
宮嵜様:最初にお話を伺った際、御社の提供する研修が当社の課題に非常に近い内容だったと感じました。他社でも同様の研修は提供されていますが、特にリモートワークができない職種向けに適したアプローチを展開している点が、当社の課題解決につながると感じました。そのため、アプリと併せて研修をお願いする判断に至りました。
アプリについてもお伺いしたいのですが、最近は類似のサービスも増えてきている中で、Wellflowアプリを選ばれた決め手は何だったのでしょうか?
宮嵜様:そうですね。総合的な判断になりますが、いくつかの企業のサービスを比較した中で、月経サイクルを管理するアプリは多いものの、Wellflowのようにコラムやショッピング機能などを通じてセルフケアの習慣を根付かせるコンテンツが豊富なものは少なかったのです。従業員の健康をトータルでサポートできる点が、非常に魅力的だと感じました。

導入時の課題について、決裁権を持つ男性管理職の理解を得るのが難しかったという話をよく耳にします。御社の場合、導入時に何か課題はありましたか?
宮嵜様:承認を得る段階では特に問題はありませんでした。DEIの方針に従い、さまざまな取り組みを進める流れがありましたので、決裁のハードルは高くありませんでした。ただし、この取り組みと並行して、生理用品を女性従業員用トイレに設置する施策を始めた際は、「女性だけ優遇されているのでは?」という声が一部で上がることはありました。その際は、エクイティ(公平性)とは何かを丁寧に説明し、「今足りない部分を補うことが公平性の実現につながる」という考え方を伝えました。日々の業務で不便を感じている従業員が、少しでも快適に働ける環境を整えることが重要であると理解してもらうよう努めました。
入江様:基本的に、DEIに関する取り組みを全社的に推進する方向性は、経営層も含めて認識をしておりましたので、大きな障壁はなかったと考えています。一方で、従業員の中には「女性優遇ではないか」という意見を持つ方もおり、ダイバーシティの考え方については、引き続き社内での理解を深めていく必要があると感じています。
ちなみに、エクイティに関する社内発信について、どのような方法で従業員に伝えられたのでしょうか?
宮嵜様:研修の冒頭で受講者に直接説明を行ったほか、研修の目的や背景を事前に理解してもらうための説明も行いました。また、全社的に発信する際には、私自身が全員に直接話すことは難しいため、部門ごとに情報を伝え、それぞれの部門長を通じて社内へ周知しました。このように、社内の風土としてエクイティの考え方を根付かせるための取り組みを継続的に行っています。
研修とアプリの導入で何が変わった?現場のリアルな声と見えてきた効果
サービスの話に戻りますが、アプリや研修を導入されたことで、どのような反響があったのか、率直なご意見や評価についてお聞かせいただけますでしょうか?
入江様:研修については、社内でアンケートを実施しましたが、肯定的な意見が多く寄せられました。特に、女性従業員と接する男性上司の視点から、「どのように接すればよいか分からなかったが、ロールプレイを通じて適切な対応方法を学べてよかった」という声がありました。また、職場の風土醸成の観点からも、「こうした研修が必要だ」と改めて認識したという意見もありました。
入江様:女性従業員に関しては、社内における女性の割合が少ないため、同じ悩みを抱えている仲間がいることにすら気づいていなかったという方が多く、今回の研修で初めて実感したという声がありました。女性従業員のみを対象とした研修を実施したことで率直に悩みを話し合う機会が生まれ、心理的なハードルが下がったり、不安が軽減されたりしたことが大きな成果だったと感じています。
宮嵜様:女性の参加者の中には「普段、女性同士でも生理のつらさについて話すことはあまりないが、研修を通じて初めて自分が大変な状況だったと気づいた」という方もいらっしゃいました。それがきっかけで、解決策を探してみようという前向きな動きにつながったり、職場の設備面に関する改善要望が具体的に挙がったりするなど、良い変化が見られました。
実地研修だからこそ、受講者の生の声を拾いやすい点があり、デジタル化が進む時代においても、アナログな方法の価値が再認識される機会となったように思います。
入江様:実際、アンケート結果の中には「これまで受けた研修の中で最も役に立った」という意見もあり、従業員にとって有意義な研修だったと感じてもらえたのではないかと思います。

鈴木様:他の研修と比べると、通常は職責や立場に応じた研修が多く、マネジメント研修や業務上の専門研修が中心ですが、今回の研修は「女性の健康課題」をテーマにした点が特徴的でした。一般的な研修では、会社の制度や休暇の仕組みを説明する場面はありますが、そうした情報が「制度の一部」として伝えられることで、十分に理解されにくいという課題がありました。一方で、今回の研修では「女性の健康課題」を主軸に、実際の相談の仕方や制度の活用方法を学べる実践的な内容になっていたため、より現実に即した形で学ぶことができたのではないかと思います。
アプリについてですが、以前宮嵜様とオンラインでお話した際に、「セルフチェックをやってみて、ためになった」という声があったと伺いました。アプリの利用状況について、どのような反応がありましたか?
宮嵜様:そうですね。実際に使ってみた方の中には、セルフチェックを通じて「自分の体調を知るきっかけになった」といった意見がありました。また、セルフチェックをきっかけに受診につながった方もおり、オンライン診療ではなく近隣の病院に実際に足を運んだというケースもあったようです。今後こうした利用者の体験を広めることで、さらなる活用促進につなげていきたいと考えています。
受診につながったという点は、大変意義のあることだと思います。それは研修後にアプリを利用して気づいたケースなのか、それとも研修を受ける前からアプリを使っていたのでしょうか?
宮嵜様:研修がきっかけでした。研修中に自身の通院経験も話したことで、研修後に「どこの病院に行きましたか」「受診は問題なかったですか」と質問してくださりました。なので本当に研修が行動のきっかけになったと感じています。
研修の場でセルフチェックを実施するという取り組みは、実は御社が初めてでした。現在、他の企業でも導入を進めています。セルフチェックを行うことで初めて自分の状態を認識し、適切な対応が必要だと気づく方もいらっしゃったのではないでしょうか。
宮嵜様:確かに、実は重い症状を持っているのに、他人と体調を比較する機会が少なく、自分の症状を「当たり前」と思って我慢している女性は多いのかもしれません。
今後の展望——女性活躍推進から「誰もが働きやすい」職場づくりへ
最後の質問になりますが、今後、健康に限らず女性従業員に対するダイバーシティの観点から、どのようなサポートを強化していきたいとお考えですか?
入江様:昨年10月に全社的なDEI方針を掲げ、現在は各種施策を進め始めた段階です。まずは、この考え方を社内に浸透させ、企業文化として根付かせることが重要だと考えています。最終的には、性別・年齢を問わず、それぞれの事情に合わせて誰もが働きやすい環境を整えることが目標です。ダイバーシティを担当する部署として、制度の整備も含めて取り組んでいき、全ての従業員が安心して働ける環境を作っていきたいと考えています。
宮嵜様:ダイバーシティ推進の際、「女性」はマイノリティの中でも大多数を占める層であり、最初に取り組みやすい分野でした。今回の施策をきっかけに、見えていなかった課題を掘り起こし、必要なサポートを提供していければと考えています。女性という切り口では、キャリア研修は以前から実施されていましたが、ヘルスケア領域への取り組みはまだ不十分だったと感じています。今後は、女性という切り口に限らずいろいろなところに視点を向けていきたいと思います。
鈴木様:いろいろな背景・考えを持った方がいる中で、それぞれが抱える課題を認識し、皆さんが働きやすくなるような形に進めていけたらと思います。

インタビューは以上になります。ありがとうございました!